吉原暗黒譚 誉田哲也著
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誉田哲也さんといえば「姫川玲子シリーズ」や「ジウ」といった推理小説、武士道シックスティーンを中心とする「武士道シリーズ」の青春小説が人気ですが、吉原暗黒譚はそれらの作品の以前に書かれたある意味「原点」とも言える作品のひとつです。
ヒット作が出たことで過去の作品が見直され文庫化され形ではありますけど、あまり粗さは目立たない作品ですし、人間の利己的で傲慢なところがしっかりと描かれていてこれはこれで完成度が高いと感じました。
物語の舞台はタイトルからわかるように、江戸は吉原。
吉原は身分もなにも関係なく「懐具合(要はお金があるかないか)」ですべてが決まってしまう一種独特の文化のある地域(それを粋と呼ぶこともあると)なんですが、その吉原の中で黒い狐面を被った怪しい集団による花魁殺し事件が続いて起こります。
江戸の町といえば奉行所といわれる今の警察のような組織がすでにあるのですが、吉原の中で起こったことだからなのか、それとも他に理由があるのかわかりませんが、奉行所は捜査に乗り出すこともなくただ知らぬ存ぜぬを貫くばかり、、、
そこで立ち上がるのが、北町奉行所の同心で主人公となる今村圭吾。今村は吉原のある番所に詰めていて狐面とも対峙したことがあるものの、正義感から捜査に乗り出すのではなく、何はなくとも「お金の匂い」を感じての行動というのがなんとも潔い^^
ということで、今村は殺された花魁たちの胴元である女衒の丑三のところに押しかけ「狐面を殺す」ことを条件に金銭を要求します。これ今の時代にやったらかなり問題でしょうけど、江戸時代ならこれくらいあってもおかしくないかな、と感じるから不思議です。
そして無事に(?)依頼を受けた今村は、元くの一で花魁としても活躍、今は髪結いをやっているという不思議な経歴を持っていて何故か今村と昵懇の中となっている彩音とともに狐面の背後を調査しにかかると。まあこの二人の絡み(文字通りの)が妙にリアルな所で作品の艶めかしさというか「舞台が吉原」ということを強調しているように思えます。
二人に加えて、父親に虐げられる幼子、真面目に暮らしている大工の耕助と憧れの人およう、今村と同期の同心 東山仙右衛門(仙吉)が絡んできて事件を解決より複雑にしてきます。仙吉は今村と同じ時間軸で登場しますが、虐げられる幼子と耕助は最初は別の時間軸で描かれています。この辺の手法はジウで描かれた手法に通じるものがあります。
狐面の正体が誰で、何のために花魁を殺していくのかが物語の焦点でもありますが、そこに虐げられている幼子が誰なのか、そして耕助の憧れるおようの変貌、今村とコンビを組んでいるはずの仙吉の怪しい行動など複数のネタが並走しているものが、後半になるにつれてすべてが繋がるように加速度を増していきます。
この伏線のまとめ方、スピード感は流石の一言です。
そして最後、、、
今村の「らしさ」がいい感じのオチになっているのが救いになっているのも良いですよ。
誉田哲也作品の中でも、姫川玲子シリーズ、ジウがお気に入りの人は是非読んでもらいたい作品です。あと、これを読んだらよりダークな仕上がりになっている「妖しの華」もおすすめしたいと思います。
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