つばさものがたり 雫井脩介著
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作者の雫井脩介さんは、クローズド・ノートで世間に感動を与えたことで感動小説が得意に思われているかもしれませんが、これも映画にもなった「犯人に告ぐ」など硬派な作品が多いんですよね。
ただし、今作のつばさものがたりは、ある意味クローズド・ノート以来と言ってもいい珍しい「感動小説」に仕上がっています。色んなパターンの小説を書ける作者はやはり巧い作家だと思いますね。
物語は主人公であり、東京の名店「パティスリー・ハルタ」でパティシエールとして働いていた君川小麦が病気が原因でお店を辞め、実家(北伊豆)に戻って亡き父親との約束であるケーキ屋を開くところから始まります。
とはいっても「パティスリー・ハルタ」での働きぶり、そして仲間とのつながりも中盤から後半に向けて非常に重要な要素になるので、実家に帰るまでの小麦の真摯な対応は見逃せないポイントにはなっています。
また、もう一人(+α)の存在も物語には欠かせないポイントになっていて、それが小麦の兄、君川代二郎とその妻の道恵の一人息子である「叶夢(かなむ)」。彼と仲良しなのが「レイ」という天使と妖精のハーフで、叶夢以外には誰にもその姿を見られることがない存在です(これが+α)。
天使と妖精のハーフ、、、
なんて存在がでてきた時点で、物語はファンタジーになり下手をすると「なんでもあり」の雰囲気を持つところなんですが、そこをきっちりとリアルと結びつけることができているのが、つばさものがたりの素晴らしい所ですね。
アウトラインのところで少し脱線してしまいましたが、実家に戻ってケーキ屋をオープンした小麦ですが、スタートダッシュはよかったものの、次第に客足が遠のき徐々に経営に行き詰まっていきます。またお店の状況と重なるように体調も悪化していきます。
ついにはせっかくオープンしたお店を一時休業するという最悪の事態に陥ります、、、、
その窮地を救ったというか、落ち込んでいる小麦の背中を押すのが、エンジェルテストと叶夢が話すレイが天使になるために受けるテスト。このテストに向けては見えないはずの代二郎も協力的になりレイを指導したり、レイと競うように叶夢も自転車に乗れるようになるなど、小麦の落ち込みとは正反対に精力的に活動する姿が印象的です。
そして、エンジェルテストの当日、叶夢と代二郎と一緒に小麦もテスト会場に向かいます。そこで見たものは、、、、
ってレイが見えるのは叶夢だけで、相変わらず代二郎も小麦もその存在は見えないのですが、一所懸命に応援する叶夢の向こう側にレイを感じることに成功します(小麦だけ)。
そこから小麦の体調が急激に復調し、お店も新しい場所に移してリスタートを行います。
このお店はスタートこそ静かでしたが、徐々に人気を集めていき人気店になっていくのですが、小麦の体は決して完治したわけではなく、別れの日は確実に近づいていました。。。。
エンディングは決して奇をてらったものではないので、読んでいく途中で「あ~、、」という思いはありましたけど、一度は諦めながらも限られた時間を自分の仕事のために真摯に取り組む小麦の姿と、それを支える回りの距離感のいい思いやりや優しさは感動を覚えました。
あと、他の人には見えないものが見える叶夢に対する偏見のない態度は本筋とは若干違うかと思いますが、作者の大事なメッセージなんじゃないかなと、勝手に想像しています。
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