ストロベリー・フィールズ 小池真理子著
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ストロベリー・フィールドは既婚の女性の恋愛を描いた作品なんですけど、アウトラインだけを見ると「どろどろとした展開」になってしまいそうなところを、嫌味なく爽やかな展開にするのは小池真理子さんならではだと思います。
とはいってもそれはあくまでも「読了感」であって、640ページ以上ある作品の中では主人公の葛藤はもとより父親とは母親とはといった、家族の役割そして絆について揺れ動く描写がたくさんあります。
物語の主人公は神奈川県葉山にある眼科のクリニックを経営している45歳の月川夏子女医。彼女は出版社社長の月川智之と結婚もしていて、仕事に家庭に順風満帆な生活を送っているようにみえます。ただ1点、智之が再婚でその連れ子であるりえがいることを除いては・・・
なんて、思わせぶりな書き方になってしまいましたが、物語のスタート時点では夏子とりえは義理の親子ならではの微妙な空気感があって距離も決して親子のそれではないものの、年の離れた姉妹という雰囲気を漂わせています。もっともこれは2代目のお坊ちゃん社長、智之のどこか浮世離れしたところも影響しています(いい意味で中心になっている)。
微妙なバランスの中でも楽しく暮らしていた家族ですが、ある日えりが友人の兄として自宅に招いた青年・平岡旬の存在がそんな家族に大きな影響を与えていきます。影響というか、一番アクティブに行動するのがこの旬なので、悪い言い方をすると月川家を引っ掻き回す存在になっていきます。
というのも旬は年の近いりえではなく、その母親(継母ということは知っています)である夏子に恋心を抱き、積極的にアプローチをかけていきます。そして夏子も最初はただの憧れだと思っていたものの、夫である智之の不倫が発覚し気持ちが揺れ動く中で徐々に旬が気になっていきます。
ここまでだとよくある不倫物語になっていくのですが、意外とといっては失礼かもしれませんが、夏子は旬に惹かれているとわかっていても、超えてはいけないラインは決して超えることなく、一定の距離をとるように努めていきます(この強さが夏子の魅力でもあり物語を複雑にしていきます)。
この距離感に嫌気が差した旬はあろうことか、夏子の娘であるゆりにもアプローチをかけていきます。もちろん夏子にはバレないように水面下で動くのですが、彼自身は夏子を傷つけようとするためではなく、思いをよせる夏子の幸せを願って行動しているため、そこに「悪意」はなく不器用ながらひたむきに突き進んでいくため潔さもあるんですが「痛さ」すら感じるところがあるんですよね、、、
中盤までは旬が突っ走る展開でどこに向かうのかと思っていたのですが、途中その旬の心が折れてしまうところから物語の様相が一変します。自分に自信満々だった旬に何があったのか、そして旬によって引っ掻き回されていた月川家の家族関係がどうなっていくのか、、、といった辺りが後半の見どころになっていきます。
最終的には旬が月川家に迎え入れられる(夏子にもゆりにも)ことはなく、お互いが必要とし合える「もっとも安定する場所」を見つけることができるところで物語は終わります。必ずしもこの終わり方がハッピーエンドだったとは思いませんが「本当に必要な人」が誰なのかを考えさせられる作品でしたね。
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