夜想 貫井徳郎著
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一人ひとりの描写が丁寧で、マルチストーリーを展開するのが得意な貫井徳郎さんですが、この「夜想」もこの流れをくんでいて、メインストーリーにサブとなるストーリーがあり、2つのストーリーが後半でぶつかるところに見所があります。
ほんと貫井作品は人間の奥深さ、欲深さ、そして「普通」とは何かを訴えかけてくるものがあります。
物語は、事故で妻子を亡くし抜け殻のように生きている主人公「雪藤」がある日街で「遥」という[ある特殊能力]を持った女子大生と出会う所から始まります。
「遥」は特殊能力のせいで、子供の頃から辛い思いをしていたが、父親の影響もあり「人を救う仕事をしたい」と願う純粋な女性でした。
※[ある特殊能力]がある意味この本のキーポイントになるので、ここでは秘密にしておきます。
そんな「遥」との出逢いで妻子を亡くした辛さから癒されていった「雪藤」は「遥」の夢を叶えることが自分に与えられた使命だと感じ、「遥」を中心とした「人生相談を行う」ボランティア団体を作ります。
最初は顔見知りで初めた小さなボランティア団体でしたが、宣伝活動のおかげで有名になり人も多く集まるようになっていきます、そしてある男の加入によって「コフリット」という名前の宗教団体に発展していきます・・・
サブストーリーでは、娘に見捨てられてしまう母親が登場し、娘を捜しに東京に出てくる流れで「コフリット」と出逢うと・・・。
本当は宗教団体という言葉、体裁に違和感を持ちつつも大きな流れに逆らえず飲み込まれてしまった「遥」と「雪藤」はそこに生まれる歪みに思い悩みつつ動かされていき、その最後の爆発がサブストーリーに登場する母親の乱入となります。
特殊能力ゆえ諦念の感がある「遥」と必要以上の責任感で突き進む「雪藤」、そして無責任に「癒し」を求めている人、お金の匂いをかぎつけてハイエナのように群がってくる人などそこに絡んでくる数々の人間模様が物語を奥深い物にしています。
救おうとする側の迷いや戸惑い、逡巡などといったことがしっかりと描かれているので、「救い」「癒し」といった最近軽く使われる言葉をより深く意識することになる作品です。
ただ、さすがに500ページを超える長編なので中盤のたるみ~とくに「コフリット」立ち上げ当たり~がしんどいです。でもそこを超えて後半になると、展開が一気に変わってくるし終盤の「その後」でのちょっとしたトリックはさすがだと言えます。
※トリックは気がつく人はきっと気がつくと思いますが・・・・
宗教についての展開が誤解を生む部分もありそうですが、人が「救い」や「癒し」を求める一番のよりどころが宗教になっているのは疑いのない事実なので、ここはストーリーを支える土台になっているため避けては通れない題材だと思います。
貫井作品はヘビーな物が多いですが、やっぱり好きな作家さんです。
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