魔欲 山田宗樹著
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何かと問題 話題作を書き続けている山田宗樹さんですが、この「魔欲」は角川文庫では「直線の四角」以来久しぶりの刊行となる作品です(文庫軸でみても9年ぶりとなっています)。
魔と欲がタイトルになっていますが、作品の中軸を担っているのは精神的追い詰められた主人公とそれを治癒する医師のそれぞれの葛藤を描いたものになっています。
あっ、、、
病を患っている主人公からみると魔欲というタイトルは遠く離れたものですが、本来なら病気を治す立場の医師がとった行動をみると「悪魔の囁きに耳を傾けてしまった」となるので、魔という言葉がピッタリと合うように思えます。
物語は、広告会社に務めていて仕事も順調にこなしている主人公、佐東邦郎(さとうくにお)の目線と、「とある患者を抱える医師」の目線の2つで進行していきます。
並行で語られているので、その2つの物語の帰結点がきになるところですが、本筋となる佐東邦郎に目を向けると、仕事は順調でしかも完全に割り切った感じの愛人もいて、順風満帆な生活を送っていますが、ある時その愛人から関係を終わらせたいと告げられます。
元々が割り切った不倫関係の終焉なので、そのまま何もなく終わるのかと思ったら、その後不倫相手の女性(比呂子)の夫が電車に飛び込んで自殺をしてしまうという、佐東の足元をグラグラに揺らす事態が起こります。
その話を聞いた後佐東はなぜか自ら死にたくなるという「希死念慮」に取り憑かれてしまい、仕事も手につかなくなるほど追い込まれていきます。そして、思い悩んだ結果精神科医の門をたたくことになります。
あまりネタバレになるようなことは書きたくないのですが、この物語ではこのネタバレはあまり大きな意味を持たないので、書いてしまいますが、2つの物語のもう一つである精神科医の葛藤は佐東を診察している医師のものです。
最初はバラバラの物語のような雰囲気もありますが、後半になるにつれて2つの物語が一つに収斂されていく流れはなんとな~くわかっていても引き込まれるものがありました。
現代社会において、精神を病んでしまうことは決して珍しいことではなく、いつ自分に起きてもおかしくない問題であることは、疑いのないことなのは改めて考察することもないくらいの事実だと思います。
いつ自分の身に降りかかるかを考えた時の恐怖や、万が一そうなってしまったときの対応について考えさせれることはもちろんですが、治療にあたる医師も「同じ人間」という点に関してもフォーカスが当たっているのが本書の奥深さかだと感じましたね。
医師とはいえ「魔が差すときがある」
といってしまえばそれまでなのですが、ただ物語は悲観的な中で終わってしまうのではなくて、患者である佐東はもちろん、北見医師(やっと名前を書くことができた)、そして佐東の愛人で夫をなくした比呂子も最後の最後のところでは自らの「闇」に立ち向かいそれぞれの立場で「生きること」を選択して行動することになります。
難しいテーマにあえて挑んでその中から次へのステップを探っていく辺りに作者である山田宗樹のメッセージを感じるのは自分だけではないと思います。
内容的には「社会派」と呼ばれる部類にはいる作品だと思うし、テーマも重たいので苦手な人もいそうな感じですが、なんというか自分を見つめなおす時期かも、、、なんて漠然と感じている人は読んでみるといいのかなと思ったりしています。
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