君の望む死に方 石持浅海著
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君の望む死に方は、実際には犯罪は起こっていないものの犯人(今作では犯罪の内容)がわかっている中で進行していくいわゆる倒叙ミステリに分類される作品です。
一般的なミステリ小説では、犯人は誰なのか、どうやって犯行を行ったのか、そして「動機」がポイントになりますが、この作品ではなぜ犯行を行わせようとしているのか、そして被害者、加害者それぞれの心理の移り変わりがポイントになっています。
密室殺人事件にあるようなトリックが分かった時のカタルシスはありませんが、登場人物の心理描写が錯誤のない状態(倒叙ミステリなのに)で丁寧にそして描かれているため、話の中にどんどんと引き込まれていきます。石持浅海さんの作品はいくつも読んでいますが、この辺の描写はいつも丁寧なんですよね(くどく感じる時も稀にありますけど)。
物語は、ソル電機という大会社の創業社長である日向貞則がガンの告知を受け、余命短いと知らされるところから始まります。会社の社長ですから当然会社の行く末を心配するのかと思ったら、そうではなくある若者に自分を殺させようと仕掛けを施します。
その若者というのが、日向社長と共にソル電機を創業したエンジニアの堺陽一の息子で、今は母方の性を名乗り創業者の1人の息子だということを隠してソル電機に勤めている梶間晴征という男性。
この辺の設定に多少無理がある感は否めませんが、日向に恨みを持つ理由について明らかになる過程を読むと「まあまあ」と思うのも確かなので、舞台を整えるためのものと考えおいていいと思います。
そして犯行の現場に設定されたのが、ソル電機が熱海に保有している保養所。ここに幹部候補生の研修と称して、梶間晴征の他3名のソル電機の社員(男女とも2名ずつ)と研修のオブザーバーとして日向社長の知り合いが3名呼ばれます。ただし、この研修は表向きの話で実は社員同士を結びつける「お見合い研修」というのが本来の目的となっています、、、
展開としては、殺人の場を作った「日向貞則」、研修の場を利用して父親の仇(と思っている)を殺そうとする梶間晴征のそれぞれの視点で書かれていくのですが、ここに追加されるのが探偵役とも言える碓氷優佳という女性。彼女は日向社長の知り合いとして研修に参加するのですが、異常に鋭い勘を持っていて日向社長と梶間がそれぞれやろうとしていることを看過していきます。
碓氷優佳の常人離れした「勘(嗅覚ともいうか)」は一般的な推理小説では「超えすぎている」感じはしますが、自分を殺させようとする日向社長も殺人を犯そうとしている梶間晴征も計画性は「緩すぎる」なため、対比してみると落差が大きく何故かしっくりと感じてしまうところがあります。
3人の静かな心理戦とは裏腹に、研修に参加したメンバーが大げんかをしたり、梶間に思いを寄せる女性(お見合い研修としての成果がここに)がいたりと、3人をとりまく環境は慌ただしく動いていく中で物語はクライマックスを迎えます、、、
クライマックスの前には日向社長と碓氷優佳が対峙するのですが、ここで「おやっ」と思うのは、碓氷優佳は日向社長の計画も梶間の行動も正確に見抜くものの積極的には「止めない」こと。逆に日向社長には梶間と対峙して戦うことまで示唆します。最後の最後で「迷い」を与えるのは何故なのかはちょっと不思議な感じです。
そして、、、、
日向社長と梶間の最終対決に移るのかと思ったら物語は、梶間を待つ日向社長の描写で終わってしまい、最終的な結末がどうなったのかは読者に委ねられることになります。
ただ、、、
冒頭では誰かが亡くなったことが明示されているので、どちらかかもしくは2人共亡くなったことは間違いないので、2人が対峙したことは間違いないと思います。
う~ん、書評を書くのに改めて読み返してみても、色んな伏線が張られていて何度も読んでも楽しめる作品でした、倒叙ミステリが好きっていう人はそんなに多くないですけど、ちょっとひねったミステリが好きな人は読んでも損はないと思います。
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